消費者団体訴訟制度については、消費者契約法制定に際しての衆参両院における附帯決議(平成12年4月)、司法制度改革推進計画(平成14年3月閣議決定)等において、その検討の必要性が指摘されてきました。そしてそれを受けて平成16年4月に『国民生活審議会・消費者政策部会』内に『消費者団体訴訟制度検討委員会』が設立されました。
同委員会に於いては、平成16年12 月に『消費者団体訴訟制度の骨格について(PDF文書)』を報告。その後、平成17年6月に『消費者団体訴訟制度の在り方について(PDF文書)』という報告書が提出されました。
この制度は、昨今、消費者契約に関わるトラブルが増加しており、その内容は一段と多様化・複雑化している中で、消費者の利益の擁護を図るための仕組みとして、消費者団体が消費者全体の利益のために訴えを提起することを認める制度(消費者団体訴訟制度)を導入する必要性が高まりを見せていることから策定をされたものです。
確かに今現在、何かの不法行為を見つけたとしてもその直接の被害者ではない場合、消費者団体は、その会社や組織を訴えるような法制度にはなっておりません。これには、時代遅れとも言える『実損主義』が根強く法曹界の思想にこびりついていることが原因と考えられます。損害を受けた人以外の人間には、訴訟を起こす権利がないとも取れるこの主義は、消費者問題を語る上で目の上の瘤以上の邪魔な考え方だと思います。確かに損害を受けた人は当然訴訟起こす権利があります。しかし目に見えない不法行為の場合やハッキリとした損害意識をもてない場合、誰が訴訟を起こすのでしょうか。その為にこの制度の検討が始まったと言えると考えられます。
しかし本来ならその様な争議の為に『消費者団体』という組織が存在していると考えますが、実際上、その様な行為を出来づらくしています。本末転倒的な状態を打破するにはこの制度は有用かも知れません。
但し、昔から存在する消費者団体みたいな直向きに真実を追いかけようとしている誠実な団体が存在していることが条件だと考えますが、昨今の消費者団体やその類の組織は、己の利益追求型や無駄に大きくなった組織維持のために利益誘導型組織に変貌しているところが多いように思えます。元々消費者団体は損得勘定を別にした、下世話的には金勘定なんてしなくてもいいような人達が、手弁当で行っていた物でした。もしその様なところが訴訟を手がけるとすれば安心して任せられるかも知れません。しかし利益を追い求めていかなければならない状態の組織だとしたら途中で寝返るまで行かなくても適当なところで手打ちしてしまう恐れがあると言っても過言ではないと考えます。
その為だと思いますが、この『消費者団体訴訟制度』には『適格消費者団体』という言葉があります。これは、
消費者団体訴訟制度が、消費者全体の利益を擁護するため、一定 の消費者団体(適格消費者団体)に対し差止請求権を認める制度で ある(「消費者団体訴訟制度の在り方について」より抜粋)
という物であり、以下の三点が観点の基本としてあげられています。(「同上」より抜粋)
- 消費者全体の利益を代表して消費者のために差止請求権を行使できるかどうか (消費者利益代表性)
- 差止請求権を行使し得る基盤を有しているかどうか(訴権行使基盤)
- 不当な目的で訴えを提起するおそれはないか (弊害排除)
どの項目も一々もっともだと思う項目です。ただこの『適格消費者団体』という認定制度には、少々裏があるような気もしてなりません。確かにライバル組織の息の掛かった団体や若しくはその為だけに団体を作り訴訟を起こされたは、正常な商活動にまで深刻な影響が生じる恐れがあります。その為には必要な物だと思います。
しかしだからといってそれを有しているかの判断に法人格の有無や、組織の規模・実体などだけで事足りる物でしょうか。一応『消費者団体訴訟制度のあり方』では、『適格要件の具体的な在り方』と言う項目があります。それには、
- 法人格
- 団体の目的
- 活動実績
- 団体の規模
- 事業者等からの独立性
- 組織運営体制、人的基盤、財政基盤
- 反社会的存在等の排除
とあります。これらから国としての別の目的も伺えるような気がしますが、それは追い追い記すとして、法人格については、補足に
近年、NPO法人制度や中間法人制度が新たに創設され、非営利団体が比較的容易に法人格を取得し得る環境が整備されてきている。(中間法人:「社員に共通する利益を図ることを目的とし、かつ、剰余金を社員に分配することを目的としない社団」)
とあります。しかし前に書いた『是が非のNPO法人』で記しているようにNPO法人にはまだ克服しなければならない事項があります。それに『書類審査』だけの団体が法律に規定されているからと言って『権利・義務能力のある団体』とするのは些か問題があると考えます。もしこの様な制度にNPOを利用する物であるのなら法律の抜本的な改変が必要だと考えます。
2〜4項目は、当然として5項目目にある『事業者からの独立性』については、絶対外してはいけない項目だと考えます。当然と言えば当然なのですが、現行の『制度のあり方』では、
特定の事業者の関係者もしくは同一業界関係者が当該機関の構成員(役員)の一定割合以上を占めないようにすることが求められる。
とされていますが、これではまだ不足だと考えます。確かに上記の引用文については、必須な物です。しかし一部の消費者団体では、推奨品として様々な商材を扱っています。そして扱う以上その生産者や団体と密接な関係を築いていることは、想像が容易に出来ます。ですから幾らその関係者が、当該機関の構成員(役員)になっていなくとも影響を与えることは充分に可能だと考えます。それらの意向が反映されないという保証は全くありません。また議事録にも載らない闇の部分での話になりますから、その分厄介になるはずです。
確かに完全に孤立した組織という物は存在しません。なにかしらのしがらみが生じるのは仕方がないことです。しかしこの場合、それを是としていいのでしょうか。この場合には否と言うべきだと考えます。完全に影響力を排除したいのなら、その類の消費者団体は、適格団体として扱わない方がよいと考えます。
6項目目は、それらを全部実行可能な団体は、すでに身動き一つ取るのにかなりの制約や迅速性を持ち合わせていない可能性が考えられます。確かに何処の馬の骨だか分からない組織では、問題があります。ですが本来スタンドプレーから生じるチームプレーという物が消費者団体に必要ではないかと思います。過去を紐解かなくてもこの様な行動が、様々な問題を解決してきたことを考えると、組織の体制云々よりもっと必要な物があるのではないかと考えます。6項目が指し示す組織は、何事をやるにも顔色伺いをする営利企業と大差がないように感じます。
7項目目にある反社会的存在などの排除という項目は、5項目同様厳密に行って貰いたい項目です。この『制度のあり方』では、『暴力団等』と記載されていますし、等の部分には、極左や極右集団も含まれると容易に想像尽きますが、それ以外の国益を侵害する恐れのある団体や集団は、如何にして排除できるのでしょうか。その類に含まれている団体や集団を行政機関などが全て把握しているとは考えられません。一応『適格要件への適合性判断の在り方』や『事後的担保処置』という考え方が記載されていますが、それだけで完全に排除が可能でしょうか。反社会的存在という集団が、国家レベルで規定されていない現状では、それは無理だと考えます。また何を以て『反社会的』存在と定義づけるのか、また突き詰めれば国益に適うことを掲げている団体もその時の世論的に反社会的存在となっていた場合には、どのような対応するのか。何も『反社会的』と言われる団体が、革マルや共産党だけではないのですから。
これ以降にも『消費者団体訴訟制度の在り方について』には様々な場面を想定しての記載されていますが、お分かりの通りこれは単なる制度の『在り方』を書いているだけであり、何ら拘束をする物ではありません。ですから『こうあるべきだ』や『この様にしたい』という部分で語られています。これからこれが制度として形になっていく内にもっと緩い制度になるかも知れません。ただ、緩い制度と完成したときには、それに不具合や不備が存在したとしても『悪法も法』と言うことになります。しかしたぶん利権の絡む過去の事例を鑑みれば、この『在り方について』より緩い制度になることは、火を見るよりも明らかではないでしょうか。その時にこの制度が団体訴訟の足枷にならなければよいのですが。
さて、もしほぼこの通りの制度が出来たとしてそれで『食の安心・安全』を守ることが出来るのでしょうか。現状では『不可能』だと考えざるを得ないと思います。なぜならこれによって守られるのは、業者からの不当な契約条項や不当な勧誘だけだからです。確かに『詐欺』行為に対して集団訴訟を起こしやすくするという意味合いでは、意義のある制度だと考えます。しかし、それだけでしか無いとも言えます。それはこの制度の基礎となっている物が消費者契約法である以上致し方がないのかも知れません。
しかし今までこのブログで書いてきたことを振り返っていただければお分かりになると思いますが、『食』の世界でも見逃していけないような事案が発生しています。その時一個人が、小さくても企業や農家を相手にして何処まで係争できるでしょうか。私財をつぎ込んで解明したとしてそれが酬われるのでしょうか。実際的には、個人的にその様な行為をした場合、それに類する企業や農家などから嫌がらせを受ける恐れの方が多いと考えられ、実際にもその様な事例が存在しています。この様なことを防ぐためにこの制度の範囲を広げるべきだと考えます。最終的に刑法に触れる物ばかりが、消費者の利益を損なうわけではないことを考えると至極当然だと考えます。
この制度が完成し施行されたとき『適格消費者団体』を取得できるのは、消費者団体でも大手と言われるところだけでしょう(若しくは小さくても政治家に強いコネのある団体が指定される可能性もあります)。そして黎明期から存在する所謂『手弁当』的団体は、それを取得できなくなるでしょう。取得できなければ、その団体は消費者団体として何が出来るのでしょうか。相談にのってもそれ以上のことが出来ない団体に消費者が相談事を持ちかけるでしょうか。何か発表したとしても真剣に取り合ってもらえるでしょうか。もしかするとこの制度は、誠実な消費者団体の落日を早めるか存在理由を失わせる一因になるかも知れません。
かつてソ連(現ロシア)のゴルバチョフ大統領が『日本は世界で一番成功した社会主義国だ』との発言をご存じな方もおられるでしょう。昨今はそうでもないような気がしていますが、でももし社会体制の根底がそうであるなら、その体制は『体制に従順な国民(消費者)』を求めます。その様な社会では、誠実な消費者団体は、反社会的存在でしかないのです。考えすぎでしょうか。
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